CYBERDYNE株式会社 代表取締役社長CEO 山海嘉之
人・AIロボット・情報系を融合した「サイバニクス」で未来を拓く
CYBERDYNE株式会社 代表取締役社長CEO 筑波大学システム情報系 教授
山海嘉之(さんかいよしゆき)
■プロフィール
人・AIロボット・情報系が融合複合した新しい学術領域「サイバニクス」を創成。脳神経・身体系の機能改善・再生のための世界初の装着型サイボーグ「HAL®︎」を開発。2004年6月、医療・福祉・生活・労働・生産等の分野における研究開発・製造・販売を行う「CYBERDYNE」を設立。革新的サイバニックシステムの展開と、社会・産業変革の実現に向けた取り組みを推進。
子どもの頃、たわいもない夢を語る方がむしろ多いと思う。しかし、CYBERDYNEの山海社長はそうではない。すでに小学校の高学年のときに、自分が将来何をしたいか、どう社会に貢献していくかを明確にイメージしていたという。サイバニクスという新しいジャンルを作り、既成の枠にとらわれず、常にゴールから物事を考える、その考え方を伺った。
小学3年生の頃、アイザック・アシモフ博士の『I,Robot』という本に出会いました。表紙をめくると、ロボット3原則というものがありました。その中でも「ロボットは人間を傷つけてはならない」という文言があり、その言葉が特に印象的でした。漢字がとても多かったので辞書を引きながら読んだことを覚えています。本を読んでいく中でテクノロジーが人や社会に貢献している未来が頭に浮かびました。それがきっかけとなり、将来は科学者や研究者になろうと思いました。小学4年生のときにはエレクトロニクスや化学、物理、生物の実験に毎日6、7時間を費やしていました。小学6年生になったときに書いた「ゆめ」という作文では、科学者になって人の役に立つロボットを作りたいことを書き、さらに「科学とは悪用すれば怖いもの」とも指摘しています。大学のオフィスではこの作文を扉に貼っています。小学5年生から中学生の時期では、理科実験に加えて、ラジオ、発信機、レーザーなどを作ろうとしていましたので、実験内容がどんどん難しくなっていきました。おもちゃは買って貰えませんでしたが、実験に必要な薬品や顕微鏡は買って貰えました。
■社会のルールを変え、社会問題を解決
私はテクノロジーの進化によって社会は変化していくと思っています。私たち人類は、ホモサピエンスの時代まで遺伝子を変えて進化してきました。そして、テクノロジーを創り出しながら、「狩猟採集社会」、「農耕社会」、「工業社会」、「情報社会」へと社会変革を実現してきました。私たちの活動の場は、物理空間を超えてサイバー空間へも広がっており、私は社会問題が直面する課題を、サイバニクス技術(人・AIロボット・情報系の融合技術) で解決していこうと思っています。ロボット産業、IT産業に続く新産業「サイバニクス産業」が動き始めています。「サイバニクス革命」と言えるでしょう。CYBERDYNEはたった5名でスタートしました。現在は、サイバニクス産業の先導的な研究開発型の株式上場企業となり、また、文部科学省が指定する指定研究機関にもなりました。新たな治療、ヘルスケア、作業支援などさまざまな革新的サイバニクス技術の研究開発や、社会のルール変革にも挑戦しています。
つまり、社会の問題を解決する際に、技術的取り組みと社会的取り組み、そして、未来開拓者の育成を同時展開しています。たとえば、これまでロボットは工場の中でしか使えませんでした。しかも、工場の中であっても、人とロボットはフェンスで仕切られていなければなりませんでした。そういう時代に合わないルールをアップデートするために、ルールを作る側に回って世界レベルで活動をしています。その結果、ロボットは医療や福祉や生活で使えるようになったのです。こうして生まれたのが世界初の装着型サイボーグ「HALⓇ」です。
■日本で挑む理由
コロナ禍でわかったと思いますが、今は、ある国で起きた問題が瞬時に世界の問題となる時代だということです。世界は、巨大な地球村といえるでしょう。その村でどう生きていくのか、直面する難しい問題の解決のためにやり抜くのが私たちCYBERDYNEです。ただ、革新技術であっても、医療技術の場合には各国々の許認可を取得していかなければならず、とても時間がかかります。それでも医療用HALⓇは、現在、多くの国で脳卒中や脊髄損傷、神経筋難病に対する医療機器として承認が進んでいます。日本では他国よりも時間がかかり大変ですが、それでも日本で踏ん張り続けているのには理由があります。超高齢社会にある成熟した日本を世界で最もイノベーションに適した国にしたいからです。
常に念頭に置いているのは問題と向き合うこと、何が課題なのかを明確化することです。私の望む未来像は人が幸せを感じられる社会です。人や社会のことを第一に考え、人間観、倫理観、社会観を柱として知識・知恵を身につけた人が社会の中で育っていけば嬉しく思います。
*message*
「50歳の自分は何をしていますか?」。私がよく学生に聞く質問です。頭に描けている人は、どのようにすれば想像する自分になれるのか、自分の生き方を考えると思います。自分の人生について考えるとき、あるべき未来に立って今を見る。そして、その未来を実現するために、なすべきことを課題として明確化し、それらを解決していく。こうして未来への歩みが始まる。「未来は自ら創り出していくもの」なのです。
(関東鍼灸専門学校2年 竹原孔龍)
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