水中考古学者 山舩晃太郎 / ドローンパイロット 市川泰雅

水中考古学者
山舩 晃太郎 (やまふね こうたろう)
法政大学文学部史学科を卒業後、海事考古学における世界最高峰の研究機関であるテキサスA&M大学(Texas A&M University)大学院に留学。同大学院で2012年に修士号を、2016年に博士号を取得。西洋船(古代・中世・近代)を主たる研究対象とする考古学と歴史学のほか、水中文化遺産の3次元測量(3D Recording)と沈没船の復元構築(Ship Reconstruction)を専門とする。現在、この分野における第一人者として研究を続ける傍ら、世界各国のさまざまな研究機関から依頼を受け、水中遺跡の発掘調査や学術研究の支援を行っている。
https://suichukoukogaku.com/
ドローンパイロット
市川 泰雅(いちかわ やすまさ)
株式会社ワールドスキャンプロジェクトCTO・CGアーティスト
京都の嵯峨芸術大学で建築やアート、映像を学ぶ。その後CGアーティストとしてVFX映像や水族館のプロジェクションマッピングなどを手掛ける。2017年よりエジプト調査メンバーに入り、「世界ふしぎ発見」の協力のもと、世界初の三大ピラミッドスキャンプロジェクトに従事。この仕事を通じて失われていく遺跡のデジタルアーカイブ化に魅了され、会社としてワールドスキャンプロジェクトを発足。世界中の失われていく遺跡や自然遺産などのデジタルアーカイブ化に努める。その他、世界初のだれでもピラミッドに上ることができるPyramid VRの制作、水中ドローンを使用して駆逐艦を93年ぶりに発見するなど、ドローンの可能性をさまざまに追求し続けている。

魚の目線・鳥の目線でこれまで見たこともない景色を見せてくれるドローン。沈没船の研究や水中遺跡の発掘、ピラミッド探求など、ドローンが開く新たな可能性について、水中考古学者の山舩先生、ドローンパイロットの市川さんにお話を伺った。

■沈没船の研究は面白い

――どのような学生生活を送られてきましたか

 小学4年生から大学生まで野球少年でした。休みの日も練習をしていたので、大学時代の思い出は野球の練習ばかりになります。歴史は昔から好きでした。映画だとインディージョーンズシリーズが好きでしたね。あとは、父親が本を読む人だったこともあって、高校生のとき、通学に片道1時間かかったので、文庫本を読み始めました。その結果、本好きになり、司馬遼太郎や宇宙物理学などさまざまな本を読み、より歴史に興味を持つようになりました。野球でプロになれなかったら、社会科の教師になって歴史を教えながら野球部の顧問になろうと考えていました。
大学2年生のときにけがをしたこともあり、プロの世界の厳しさに直面して挫折し、プロ野球選手になるという夢を諦めてしまいました。そうなってから、自分は野球しか知らないことに気が付いて、どうしようかと思いました。ただ、大学で西洋古代史を学ぶゼミに入っていて、卒論のテーマを決めるためにいろいろな本を読む中で、たまたま水中考古学の存在を知って夢中になりました。もはや一目ぼれでしたね。「水の中の考古学とはなんだろう?」と思ったところから始まって、まだあまり研究が進んでいない学問だと知りました。自分が研究を始めたら面白いのではないかとも思いましたね。また、水中で見つかった遺跡は酸素がないので、何千年経っていても有機物が残るくらい保存状態がよく、しっかりデータが残っていることも知り、そういった点にも面白さを感じました。それまで、学問にきちんと向き合ったこともなかったのですが、初めて水中考古学を勉強してみたいと思うようになりました。しかし、当時の日本ではそれを学べる学校や環境がなく、アメリカの大学院に留学することにしました。

――留学ではどんな経験をされましたか
最初は英語が全くしゃべれなくてとても苦労しました。現地に着いてみたら、言葉が本当に通じなくて、マクドナルドでハンバーガー1つ買うことすらできませんでした。スーパーに行ったら、いろんな人が話しかけてくれたのですが、意味が分からず、1週間は自動販売機で水を買って過ごしました(笑)。そのうち、なんとか日常会話くらいはできるようになって、意気揚々と初日の授業に出ると、先生の言っていることがさっぱり分かりませんでした。 そこで、授業にテープレコーダーを持ち込ませてもらって録音し、授業が終わるとすぐに図書館に駆け込み、辞書を片手に言葉を調べて意味を理解する、の繰り返しでした。結局、英語が理解できるようになるまで5年くらいかかりましたが、好きなことを勉強しているので楽しくて苦ではなかったですね。考古学というと、皆さん発掘のイメージがあると思いますが、研究をする学問で、研究のために発掘をします。大学院では研究の仕方を学び、上手な情報の取り方を勉強していたというイメージですね。

――水中考古学について教えてください
私が専門としているのは水中考古学の中でも沈没船の研究です。当然ながら、発掘のためには水に潜らなくらなくてはならないのですが、水中にいるときは高濃度の窒素を吸っているようなもので、人間が水中で活動できる時間は1日1時間が限界です。しかし、水中ドローンなら効率よく、安全に調査できます。ドローンの価格も安くなってきたので、これからもっと使われて、水中文化遺産の発見が爆発的に多くなると思います。

――中高生へのメッセージをお願いします
私はたまたま水中考古学に出会えたことでやりたいことが見つかりましたが、重要なのは「面白いことや、やりたいことを見つけること」だと思います。本当に好きなものを見つけるためには努力する必要があります。本を読むとか、友達に誘われたことをやってみるとかいろいろやる中で好きなものが見つかると思います。好きなものを見つけたらやり続けることができますので一流になりやすいですよね。時間がある今のうちに、たくさん調べてトライしてみてください。

■技術の進化で夢が広がる

―― どのような学生生活を送ってこられましたか

昔から人がやらないようなことをやるのが好きでしたね。ただ、中学生のときは、勉強はあまり好きではなかったし、特別興味のあるものがなかったです。高校生になって美術部に入ったのも、なんとなくかっこいいなと思ったからでした。しかし、それをきっかけに絵を描くことが好きになり、芸術の大学を目指すようになりました。そして、建築・デザインを学ぶ学部に入ったのですが、途中で向いていないことに気づいたのです。それよりも、授業の中で体験した、3D映像を作る方が楽しかったです。そこで、大学3年生のときにメディア学部に転籍しました。実際に転籍すると、自分から取り組まないと何も進まなかったので、自ら率先してやるようになり、自分で3Dの映像を作れるようになりました。人に何かを言われてやるのが苦手な私にはピッタリで、工夫を重ねれば自分でも作れるところに魅力を感じました。また、大学生でも3D映像が作れれば企業に売り込むことができ、だんだん仕事の依頼が来るようになりまし
た。

―― 仕事の楽しさや苦労をお聞かせください

私は自分がやっていて楽しいこと、やりがいのあることをするのが目的で仕事をしているので、仕事はどれも楽しいですね。この仕事は、大きい仕事をこなせばさらに大きな仕事の依頼がくるようなところがあって、自分がやった仕事が次の仕事につながってくるので、それも面白いところだと思います。また、CGを作ると家にこもりがちになってしまうのですが、外に出ることがとても好きなので、仕事で外に出る機会があるとすごく楽しいです。苦労はもちろんありますが、常に「解決はできるだろう、なんとかなるだろう」という精神をもっているのでなんでも乗り越えられると思っています。

―― ドローンについて教えてください
ドローンは遺跡の調査や3Dスキャンをしたり、映像制作において役立ちます。地上にいるときはわからないものも、空から手軽に鳥の目線という普段見られない視点で見ることができるのが魅力的です。ピラミッドやノートルダム大聖堂などの大きい遺産や高山地帯などの登れないようなところを、ドローンでなら見ることができますよね。ま
た、飛んでもブレないというのが映像という点において、とても適しています。ドローンも進化を遂げていて、これ
からますますいろいろなことができるようになっていくと思うので、夢が詰まっていますよ。子供には敷居が高いと
いった声もありますが、小さいトイドローンなどから始めれば大丈夫です。技術の発達でドローンを扱うのも簡単に
なってきましたし、その発達した技術にも触れてほしいです。

―― 中高生へのメッセージをお願いします
自分自身は勉強もあまりできなかったし、興味があることがなかなか見つけられませんでした。よくいい大学に入
れと言われるけれど、それは一番大切なことではないと思います。それよりも本当にやりたいことを見つけて、全力
で取り組んでいってください。

(東洋大学1年 濱穂乃香)

東洋大学1年 濱穂乃香/麴町中学校2年 佐藤夢奏

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